「Return to Innocence〜from [the CROSS of changes]」 (2/22)
ENIGMA 1993
T0P/KINKYO / BACKNUMBERS /


いわゆる「癒し」というようなものを求めた音楽がいかに多く近年世に出てこようが、僕の中で最高の安息を得ることのできるアルバムといえば、今から7年強遡った1993年にリリースされている、ENIGMAの「the CROSS of changes」の他にはないだろう。リリース当時、僕は高校生だったが、すでに人生に疲れていた、というわけではないけれども、しかし幼少時代からのいわゆる「悪平等」みたいなもののアラが見え始めて、自分はこの先どこにいくのかなんてことを薄々考えはじめていたときのことだ。そういった思索や欲求を非常に稚拙かつ乱暴かつ短絡的に昇華させることが出来たのならば、おそらく僕は尾崎豊にでもはまって今でもカラオケ屋で「十七歳の地図」かなんかをがなっているのかも知れない。しかし、幸か不幸か、僕はそこまで素直ではなかった。

「ヒーリング(癒し)」という言葉自体、当時から、そしていまも多少のうさん臭さを抱かずにはいられない。どうも、α波なんたらのCDのセットを39800円の20枚組とかで買わされてしまいそうな雰囲気なのである。そういえば、余談だが”ヒーリング”の原形である”ヒール”という単語の意味を憶えたのは、マイケル・ジャクソンの「heal the world」であった。このENIGMAのアルバムは、しかし昨今におけるいわゆる「癒し」系の音楽とは一線を画するところは多い。音の角自体はそんなに丸いものではないし、特に打楽器、ドラムサウンドはこの「Return to innocence」などでは特にエッジの効いたものとなっている。プロデューサのマイケル・クレトゥの手になるこの70sロック的なアプローチは、しかしアルバムの総体の中でなくてはならないエッセンスである。

ここまで文章を書いていて、こんなことをいうのは何だが、この手のアルバムは「どこがいいの?」と聞かれた時にもっとも返答に困るタイプのものである。実にひとくくりにできない、様々な要素をミックスさせたサウンドなのだ。ロック、ミュンヘン・サウンドに根をなすかのようなディスコ・サウンド、クラシック、そういったものたちである。当時、そして改めて聴いてみるいまも、宗教的で、セクシャルで、エモーショナルで、「不思議なサウンド」という印象は変わらない。いわゆる癒すために作られた音楽とはちがい、エモーショナルさ、そしてサウンドのそこからみなぎるパワーが感じられる。ぬ るま湯に入浴しているような、緩やかさや安らかさはない。そこには、疲れた体に、頭に、心に糧を注入されている、そんな感じがするのだ。モティーフはグレゴリオ聖歌だという。僕はこのアルバムをきっかけに、グレゴリオ聖歌を聴いてみる、というようなことはしなかったが、そんなことはどうでもいいという証拠でもある。ちりばめられた歌詞が、なによりそのバックグラウンドを知ることがいかに無意味かをあらわす程、簡素で、力強いメッセージだからである。そこには僕のように現在のところ無宗旨を決め込んでいる人間にも、宗教的な匂いの濃すぎない、実に普遍的なものだ。

Love - Devotion
Feeling - Emotion

Don't be afraid to be weak
Don't be too proud to be strong
Just look into your heart my friend
That will be the return to yourself
The return to innocence

If you want, then start to laugh
If you must, then start to cry
Be yourself don't hide
Just believe in Destiny

Don't care what people say
Just follow your own way
Don't give up and use the chance
To return to innocence

That's not begginning of the end
That's the return to yourself
The return to innocence
〜「Return to innocence」〜

この曲は日本でも当時すごくヒットして、NOWシリーズにも収録された。この手のものというのは一度爆発的に売れてしまうと、日本の中ではいわゆる「不思議ちゃん」に分類されてしまったりして、経年後の評価がされないということも多いのだが、しかし、これはまごうかたなき後世に残すべきTuneであり、アルバムである。惜しむらくは、昨年、あるページ(リンクからいけます)でベストディスクを選定してみたりしたのだが、このアルバムの入る余地がなかったということであろうか。疲れている人も、そうでない人も、この一枚。


ぶんせきは
KENTARO