「祈り」
2000 小林建樹
T0P/KINKYO / BACKNUMBERS /


小林建樹の、最新からひとつ前のシングルになる。一部のファンの間では名曲の誉れ高く、セールス自体も粘り強い推移をみせた。ちなみに、僕は平井堅よりも、むしろこっちである。FMの番組かなんかに彼が出演していた時に、発売前のこの唄を聴き、小手先の転調とかに頼らぬシンプルなメロディーに、とても心を打たれたが、打たれたまま、この曲を手に入れることはしなかった。いま、僕の手元にやっとこのディスクが有る。歌詞カードを見ながら数回聴く。あの時の感動がよみがえってくるメロディーライン。しかし、歌詞カードを読めば読むほど、僕は分からなくなってしまった。


あなたと離れてから、何時間かが流れ去っていきました。もう、私にはそれすら数える事は、出来なくなっています。あなたは、この先私のことを憶えていてくれるでしょうか。あなたにさよならしようと決めたあとの私は、まるで魂の抜け殻のようになっていました。なにを見て、なにを食べ、呼吸をしていたのかさえ、思い出せないほどに。

キセキを信じてたのさ あなたと出会う前から
何度かめげそうになっても どうにかやって来れたんだ

あなたはよく、「キセキ」という言葉を口にしました。その言葉が、口から出る時のあなたは、私の目を見ずに、遠くを見るようにしていました。「キセキ」その響きは、とても魅惑的で、すごく大切なもののように、あなたと出会ったばかりの頃の私には思えたのです。でも、今「キセキ」を口にする時のあなたの目を見たときのことを思い出すと、どんどん私から離れていくような、そんな怖さだけが鮮烈によみがえってきます。その怖さから逃れられない。私はまるで催眠術にかかったみたいでした。私は、もう、あなたと「キセキ」を信じられない。逃げ道をさがしていました。ほんの少しだけ、ほんのちいさな陽だまりを私はよりどころにするようになりました。

あなたを苦しめるのは いったいどんな奴なんだ
キセキを信じることさ 全てはうまく行くはず

あなたは、「キセキ」を信じられない私を、そのうえ「キセキ」でなんとかしようとしました。わたしの、ひとときだけの心の安らぎをも、「キセキ」の名のもとで奪い去りました。私にはどうする事もできなかった、ただただ、あなたが怖かった。あなたの言うことを、全て否定できない自分が歯がゆかった。それだけなのです。

答えを全部 知りたいなんて 良くないことさゆっくりと
出来る事だけ それだけでいい あとは何とかなって行くさ

遠い昔、私が壁にぶつかっている時、聞いたあなたのこの言葉は、私の胸にとても優しく響きました。この人は、私を分かってくれている、そう思うと、涙が出ました。でも、今は違います。あなたはこの言葉を繰り返したけれど、私にはもうささくれだった私の心を刺す刺にしか、聞こえてきません。

答えを全部知りたかった。それがたとえ、この先後悔しても、これで良かったと思えなくても、答えを全部知りたかったし、出来る事は全部してしまいたかったのです。あなたは、私の大事な人だったから。でも、あなたは最後まで、それをわかってくれなかった。

さよならなんて意味がないのさ 今は目を閉じ耳を澄まそう

あなたは「キセキ」のかわりに、刃を私に向けそして立ち去ってしまいました。私は私が生きている事の証明を、この両手で受け止めながら、天井を眺めています。「さよならなんて意味がないのさ」その言葉を私に残しておいて、あなたはその手でさよならをつくりだしてしまったのです。さよならの意味。それをあなたが感じる時には、もう、私はここにいないのです。さよならさえ言わずに…。



ぶんせきは
KENTARO